「夏だから...。」

季節柄怖いものが流行る。
怪談話、おばけやしき、心霊写真等。

とはいえ、霊能者で無い限り基本的に
普通の生活をしていれば怖いことなど
には遭遇しない。

むしろ浮気がばれそうになったとか、少し
大人のお店のメンバーズカードを持っている
ことを誰かに見つかったという方がいくらか
現実的で怖いものである。

かくいう私は、そういうことに該当しない為、
そういった意味で冷や汗をかくことはない。
しかしながら、別の意味でそれよりも恐ろしい
ことに今日遭遇した。

それはバイト先でのことである。

バイト先でスーツの後ろポケットにふと
手を突っ込んだところ、なにかカードが
入っている。
何かと思いそれを取り出したところ、どこかの
領収書である。

よく読むと　領収書　1000円　大八軒　とある。

調べるとバイト先から25分も離れたラーメン屋の
領収書である。日付けは3日前だ。

3日前といえば、いつものように夏期講習の
講師のバイトの日である。

バイトの日のスケジュールは、朝7時に起床し
電車でバイト先に向かい、1日授業を行い、
家に帰るのは夜の8時30分という感じである。
途中どこもよらなければそういう1日である。

バイトなのになんかサラリーマンのような
生活を送っているぞ...。
まあ、そんなことは問題ではない。

3日前もいつものように変わりない、普通の日
のはずであった。
家にも普通に帰ってきたしどこも途中寄った
記憶が無い。

なので、3日前付けの領収書がポケットに
入っているはずは無いのだ。

え？じゃ、この領収書は？

誰かのいたずらだろうと最初は思った。

私が3日前に会った人間といえば妻と、
バイト先の塾の生徒とスタッフだけである。

生徒がいたずらを？

果たして3ヵ月後に受験を控えた生徒が
塾から25分も離れたラーメン屋に行って
かつ1000円もするラーメンを食べ、領収書
をもらい、私のうしろポケットに入れる
だろうか？

いや、ありえない。私はそういういじめられっこ
キャラではないのだ。

「TDLに行かなそう。」「ジェットコースター
　のらなそう。」「いつもスーツ着てそう。」
　
等と生徒に思われている先生である。

じゃ、妻か？
それは物理的に不可能だ。別の場所で働いて
いるからだ。

じゃ、バイト先のスタッフか？

その可能性もほぼゼロに近い。
その日は殆ど事務的な話以外しなかった日
であるからだ。

じゃ、誰が...？
私がどこかにおいてあった領収書を勝手に
ポケットに入れたというのだろうか。

周りのスタッフからは

”幽体離脱ですよ。おめでとうございます。”

と言われる始末である。全く他人事である。

正直、私は笑いながら、ぞっとした。

そんなラーメン屋に行ったはずが無いし、
領収書をポケットに入れた記憶も無いからである。
記憶力と思考力を糧に生きてきた私にとっては
記憶が無いということは死活問題である。

1日授業をしながら悩んでしまった。

きっと、知らないうちに夏風邪でもひいている
のだろう。授業のしすぎだ。きっと疲れているに
違いない。

まあ、悩んでも仕方ないことだからもうどうでも
いいが、大人のお店のカードが入っている方が
いくらか記憶があり確信犯的でいいなと思ったことは
間違いない。

医者の卵と今日、お互いの将来や数年先の試験
についてしばらく話をしていたが私は実はそんなことを
話している場合ではないようだ。

人間、他人を疑うことには抵抗感が無いが、
自分を疑うようになるとおしまいである。